逃げ得を許すな!債務者の財産調査の”新”制度が始まった! 裁判書類の専門家が解説!
2019/04/17
最終更新 2020/04/01
この記事の目次
新しい民事執行制度が始まる
民事執行法
(民事裁判に関係する財産差押えや競売、強制引渡しなどを定める法律)
の改正法案が2019年2月に国会に提出され、
2019年5月に成立しました。
その運用開始日は 令和2(2020)年4月1日 からです。
主な改正点
主な改正点は、次のとおりです。
- 債務者の財産状況の調査に関する規定の整備
- 不動産競売における暴力団員の買受け防止に関する規定の新設
- 子の引渡しの強制執行に関する規定の整備
- 債権執行事件の終了に関する規律の見直し
- 差押禁止債権に関する規律の見直し
個人的には、特に
1.債務者の財産状況の調査に関する規定の整備
に注目しています。
現在の民事裁判制度の重大な欠陥
現在、民事裁判制度の重大な欠陥の一つ
(と、私は思っています。)は、
例えば、損害賠償請求の裁判で勝って、
裁判所が加害者に賠償金の支払いを命じて、
加害者に財産があったとしても、
加害者が任意に支払をしてくれなければ、
★加害者の財産のありかを被害者が自助努力で探して★
差し押さえて支払いを受ける必要がある点です。
加害者の財産のありかを被害者が探すことは、
個人情報保護などが年々と厳しくなってきている
このご時世においては、とても難しく、
裁判に勝っても、実際にお金の支払いを受けることができない
というケースが珍しくないのです。
例えば、銀行預金を差押えようとした場合、
単に「○○銀行」では足りず、
「○○銀行 △△支店」まで特定しなければ、
裁判所は預金の差し押さえ手続を進めてくれません。
つまり、現在の日本の民事裁判制度は、
被害者が裁判に勝ったにもかかわらず、
被害者は結局賠償金を受け取れずに泣き寝入り、
加害者は金銭を支払うことなく逃げ得
ということになっているのです。
財産開示制度に実効性を与える新ルール
現在も、債務者の財産開示を目的とする「財産開示制度」
というものが平成16年から導入されたのですが、
現在ほとんど機能していません。
機能していない理由は、
開示を命じられた場合、嘘をついたり、無視したりしても、
ほとんどペナルティを受けないことにあると思います。
現在は、30万円以下の「過料」(かりょう・あやまちりょう)
というペナルティしかありません。
過料とは、罰として金銭を強制徴収する制度ですが、
刑事罰ではありません。
今回の改正では、このペナルティが強化されて、
刑事罰に格上げ(?)になりました。
具体的には、
財産開示義務のある債務者が次のいずれかに該当すると、
6か月以下の懲役または50万円以下の罰金
を科されることになります。
- 裁判所から呼び出しを受けたにもかかわらず、
正当な理由なく出頭しない。 - 裁判所の呼び出しに応じて出頭したが、宣誓を拒否した。
- 宣誓したにもかかわらず、必要な事項を陳述しない。
- 宣誓したにもかかわらず、虚偽の陳述をした。
刑事罰ということは、
単なる民事で収まらず、最悪の場合
刑務所に服役させられることになりますし、
刑事罰を科せられれば、
当然いわゆる「前科」が残ることになります。
これは、過料よりも強い、
裁判所の命令に従わせる強制力が働くことを期待できます。
裁判で金銭の支払いを命じる判決を得たにもかかわらず、
相手方がその支払いをせず、かつ、
相手方の財産の所在がわからずに泣き寝入りを
せざるを得なかった被害者には朗報です。
第三者からの情報取得制度の新設
第三者から債務者財産に関する情報を取得できる制度が
新たに設けられます。
(1)債務者の★預貯金★債権等に係る情報の取得
→ 裁判所を通じて銀行などに預金情報の提供を
受けることができる。
(2)債務者の★不動産★に係る情報の取得
→裁判所を通じて法務局に所有者情報の提供を
受けることができる。
(3)債務者の★給与★債権に係る情報の取得
→市町村に給与の支払者(つまり勤務先)の
情報の提供を受けることができる。
→日本年金機構などに債務者への報酬等支払者
の情報の提供を受けることができる。
※(2)の不動産の情報の取得については、
法務局における情報システムの改修が必要なので、
運用開始が2021年以降になるようです。
現在はできない所有者等の権利者名による
不動産の検索ができるようになります。
※(3)の勤務先の情報の取得については、
請求している権利の内容が
・養育費の支払い請求権
・人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権
のいずれかの場合に限って認められます。
債務者のプライバシーへ配慮したからです。
債務者の財産状況の調査手続の流れ
(2020年4月以降)
(1)管轄裁判所に財産開示手続申立書を提出
- 管轄裁判所は、債務者の住所地を管轄する地方裁判所です。
- 申立ては、債務者ごとに申立書を作成します。
- 申立てには、判決書や執行認諾文付きの公正証書が必要です。
一般の先取特権者も申立てができます。 - 申立て費用は、申立て1件につき2,000円です。その他に 数千円~ がかかります。
(2)手続実施決定の確定 + 実施日(期日)の指定
- 申立てが受け付けられたら、裁判所が申立て内容を審査して、
財産開示手続を実施するか否かを決定します。 - 実施することが決定されたら、当事者に通知がされ、
決定が確定したら、約1か月後の日が実施日に指定されます。
(3)実施日に出頭(手続は非公開)
- 指定された実施日に裁判所に出頭します。
- 申立人は、債務者に質問することができます。
- 債務者が出頭しなくても、手続は実施されます。
正当な理由なく出頭しなかった債務者は、刑事罰を受けることがあります。
(4)第三者(金融機関など。以下同じ。)からの情報取得手続の申立て
- 申立ては、債務者ごとに、財産の種類ごとに申立書を作成する必要があるようです。
- 申立てには、判決書や執行認諾文付きの公正証書が必要です。
- 申立て費用は、申立て1件につき1,000円です。その他に 数千円~ がかかります。
(5)金融機関などに対する情報提供命令の確定
- 申立てが受け付けられたら、裁判所が申立て内容を審査して、
情報提供命令を出すか否かを決定します。 - 命令を出すことが決定されたら、当事者に通知がされます。
(6)金融機関などが裁判所に対して情報提供書面を提出
- 預金などの情報があれば、その情報の提供を受けられます。
- 申立人は、情報提供書面のコピーをもらえます。
まとめ
手元にある判決書などは、
紛失しないように、きちんと保管しておきましょう。
(紛失した場合は、判決書の再交付の手続が必要です。)
それと、勝訴の判決を取っていたとしても、
権利が消滅時効にかかることがあります。
(判決の確定日から10年)
そのような場合は、時効を中断する策を講じておくことも
必要かもしれません。
関連条文
【施行規則が決まりました。】
民事執行規則が決まりました。
下記は、外部サイトです。
新旧対照表が掲載されていますので、ご参考まで。
https://www.sn-hoki.co.jp/data/pickup_hourei/onct/MINJI-KISOKU20191127-5.html
改正情報は、こちら(法務省)
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